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愛のゆくえ リチャード・ブローディガン [本]

ブローディガンという作家は初読。70年代アメリカで若い人達に非常に人気があったが、次第に読まれなくなったという。

原題は「堕胎ーある歴史的ロマンス1966」というもの。日本語訳は少し恥ずかしい。自分で書いた本を持ち込むためだけの図書館(閲覧できない)は、1年24時間開いていて、主人公の男は一人で図書館に住み、3年間外に出たことがない。表題のとおり、男の恋人(絶世の美女)が「堕胎」をするためのメキシコへの旅が主たるストーリーとなっているが、堕胎に対する感傷的な思いは一切ない。旅から帰ると、変化が待っている。この変化の方向がちょっとありがちで、すこーしだけ陳腐に感じる。それでも、このありそうにはない図書館の設定や、過度に感傷的ではない全体の雰囲気は楽しめた。


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幻想の英雄 津田信 [本]

小野田元少尉に対する私の幻想を打ち砕いた本。


私は、「たった一人の30年戦争」を読んで以来、小野田元少尉を尊敬していた。もともとエリート一家の出自とはいえ、ぼろぼろの軍服を着て投降した翌日には、スーツを着こなして、堂々と大統領と談笑などしている写真(私の記憶による)を見て、非凡な人だという印象を受けたし、特に、その本の中で、30年間ジャングルにいて、一度も現地の女性を襲わなかったという点に、感心していた。小野田元少尉が日本を離れたのは、日本人に幻滅したからだと想像し、その点も、共感していた。


ところが、この本は、まるで違う小野田像を提供する。これは、小野田の帰国直後に独占手記をとった出版社の別荘に、小野田、小野田の兄などとともに、数か月間缶詰になっていたゴーストライターによるものである。自分の手記により、誤った小野田像が広がったことに後ろめたさを感じて書いたという。


小野田の個性は措くとして、まず、フィリピンにおける事実が違う。公表されたストーリーによれば、小野田は「戦闘」としてやむを得ず現地人を殺傷したことになっているが、「犬をけしかけられた」という理由で、村人を刀で惨殺するなどしている。(小野田はこういうことを得意げに語ったらしい)これらの現地人殺害の事実は、厚生省は把握していたらしいが、フィリピンとの補償問題になるので、公にしないようにということだったという。さもありなん。少なくとも、小野田が、現地人を「ドンコー」(土人にハチ公の「公」をつけたもの)と呼んでいたのは間違いのない事実と思われるから、彼は、現地人を人とは思っていなかったようだ。


さらに、小野田の主観にいたれば、実は終戦は知っていたという。投降すると現地人に憎まれていたから殺される恐れがあり、身の安全を確保して投降する方法が(そして自分のプライドを守る)、当時の上官を呼びつけて、大げさに投降するという方法だったらしい。


何故、この本の存在を今まで私は気が付かなかったのか、何故、小野田の言い分(本人は隠すつもりはなかったらしいが、厚生省やマスコミの都合で「英雄」が作り上げられた)のみを信じて、彼を尊敬するにまで至ってしまったのか、ひたすら反省。なんでも疑ってみて、複数の視点から見てみなければ。


ちなみに、現地で小野田が女性を襲わなかったという話は、現地でも確認されていて、事実らしい。

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またの名をグレイス マーガレット・アトウッド [本]

1843年にカナダで起きた殺人事件を題材にしたフィクション。作家は膨大な資料にあたってこの作を書いたというが、それでも、創作による一つの小説に仕上がっている。


グレイスは貧しい移民で、16歳のときに、女中をしていた家の主人を、馬番と共謀して殺したとされ、また、女中頭を殺したと疑われている。馬番には死刑が執行されたが、グレイスは年齢が若いことなどを理由に死刑が執行されず、精神病院や刑務所で何十年も過ごしたのちに、釈放されたという。グレイスが美人だったので、当時から、大変な話題だったらしい。さらに、グレイスが、逃亡先の宿で、堕胎手術で死んだ元同僚メアリーの名を名乗ったことや、精神病を疑われたことから、さまざまな想像をかきたてたと思われる。


結局、史実においては、グレイスが主人と女中頭殺しにおいて、どんな役割だったのかが謎のままになっている。事件自体について、英語のサイトを少しのぞいてみると、グレイスは多重人格者だった、グレイスはメアリーの霊に取りつかれていた、本当はグレイスは死んでいて、メアリーがグレイスになりすましていた、など様々な説があったらしい。


アトウッドは、真実に近づきたくて資料を調査したと思われるが、作品の中でも、明確な解釈は示されていない。この作品からうかがえる、最も近いものとしては、サイコパスのような自覚的な悪人ではなく、他人の痛みに魯鈍なボーダーライン的人物である。ひょっとして軽度の知的障害があったのかもしれない。創作の世界に入り込むより、事実はどうであったかということに強い興味を引く、独特の小説だった。



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悲嘆の門 宮部みゆき [本]

上中下の3巻に分かれている長編(ただし1巻ずつは薄くて、上下巻でもいいんじゃないかという厚さ。高く売りたいんだろうかと勘ぐってしまう。)

ミステリ仕立ての長編かと誤解して買ってしまい、上巻の最後まではぎりぎりそう思っていられたが、そうではなく、ファンタジーというか非現実世界と交錯するお話だった。やや哲学的なんだけれども、ファンタジーっぽいターム(「悲嘆の門」も然り)が先行していて、私としては楽しめなかった。ファンタジーというより、ゲームソフトにありそうな世界観の設定なのである。奥が深いと読む人もいるだろうけれども、奥は深くない。世界観の設定だけでは楽しめない。

宮部みゆきは、江戸時代の怪奇を題材にも書いていて、こちらのシリーズは私もとても好きなのだが、やはり同じ不思議な話であっても、「妖し」がどこかにありそうなのとは違い、現代に鳥人間が空を飛んでいるとか(要は「デスノート」)、もはや違うジャンルの小説だった。

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忘れられた巨人 カズオ・イシグロ [本]

カズオ・イシグロの最新作を読んでみた。毎回作風が違うのが、この作者の特徴だが、今回は、ファンタジー風。あくまで、「風」であって、ファンタジーではない。中世のイギリスを舞台に、アーサー王とか騎士とか高僧とか龍とか妖精とかが出てくる世界なのだが、主人公の老夫婦をはじめ、登場人物の記憶がまだらになっている世界で、記述されていることの不確かさは、「充たされざる世界」に通じる嫌な感じの不安や不条理を想起させる。


作中の時代は、アーサー王の死後間もなくということなので、そういえば、「アーサー王」のオリジナルに近いものを持っていたはずだと思って、探したら、「アーサー王の死」(ちくま文庫)が見つかった。この本はとても読みにくくて、30ページ位で挫折したものだ。プロットだけ追えば楽しい物語で、アラビアンナイトのように毎夜少しずつ人が語ったりするのを聞けば楽しめるのだろうが、読み物としてはつらい。アーサー王自体は実在はしていたのだろうが、おそらく多くの物語は伝説だろう。


「アーサー王の死」の登場人物一覧と解説だけみると、このイシグロの作品に登場する「ガウェイン卿」という人物は、アーサー王の物語にも登場する。もっともアーサー王より先に死んでいる。アーサー王はその死のとき、船に乗せられて、島に渡ったという。妖精の島ともいわれているようだ。この辺が、イギリス人ではだれでも知っているのだろうアーサー王の物語を踏まえて読むと、違うのかもしれない。

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アンチクリストの誕生 レオ・ペルッツ [本]

作者の名前を聞いたことがなかった。第一次大戦後、ヨーロッパで人気を博したらしいが、第二次大戦でユダヤ人だったのでパレスチナへのがれ、それからあまり知られなくなったらしい。


ちくま文庫のこれは、短編集で、表題のアンチクリストの誕生は、割と長く中編の長さがある。全体として、「世にも奇妙な話」のような、幻想小説でも、ホラーでも、SFでもない、ちょっと不思議な話が書かれている。(以下、ややネタバレあり)


「アンチクリストの誕生」は、自分の息子がアンチクリストであり、アンチクリストである赤ん坊を殺して、世を救うのが自分の使命だと信じる男の話。「アンチクリスト」とは、どういう存在なのかというのは、作品中に書かれてはいない。私は、キリストが神の子で、人を救うために遣わされたのだから、その「反対」であるのならば、悪魔の子で、人を滅ぼすために遣わされた存在ということになるんだろう、と思って読んだ。

そこで、この男の信ずるところが、喜劇的な単なる思い込みなのか、そうではないのか、というのが、最後に答えが明かされる。(と解説にある。)実は、私は、読んでいたとき、この明確な「答え」に気が付かなかった。でも、その他の仄めかしから、はっきり書いてはいないが、「アンチクリスト」だったのだな、と思った。で、作中の明確に明かされている「答え」が結論的には、ちょっとアンチクリストとしては小者すぎるので、私が最初に感じたように、歴史上の人物でも誰でもないけど、架空の本物のアンチクリストだった方が良かったのではないかと思う。


そこで、作品中の「答え(名前)」の代わりに、他の名前を入れて、空想してみた。まあ、「アドルフ・ヒトラー」なんかが正統派としては最も落ち着きがいい。スターリンとか。でも、生きている人の方が、本物のアンチクリストの可能性があるという点では面白い。ドナルド・トランプとか、金正恩とか。「美少年」からほど遠いところが残念だが。


短編集の冒頭の、暗号を解く男の話も、何でもない話だか、面白くて好きだ。


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東の果て、夜へ ビル・ビバリー [本]

ロサンゼルスの「ボクシス」という箱庭のような狭い世界で生きている、14歳の黒人少年のギャング、イーストが主人公。イーストの仕事は、ドラッグ密売所の見張りなのだが、ある日、ギャングのボスから、はるか東のウィスコンシン州で、黒人判事を殺してくるようにと命じられる。車で。同行者は、他に3人の少年のギャング。


イーストが、箱庭を出て、違う町の景色を見ているという序盤の描写から、まあだいたいどういう小説かは想像はつくのだが、それでも面白い。同行者たちとの関係、判事を殺して逃げていく過程など。判事殺しにその4名が選ばれたわけは、目的達成のためのバランスかと思いきや、最後に意外な真相が明かされる。


翻訳の手腕もあるのかもしれないが、文章や描写に静謐な雰囲気が漂っていて、好みだった。

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くじ シャーリィ・ジャクソン [本]

「ずっとお城で暮らしている」という長編だけ読んだことがあって、「くじ」という作品が有名なのは知っていた。これは短編集で、有名な「くじ」は一番最後に収録されているが、他の作品と比べて、特別面白いわけでもなかった。


しかし、犯罪までに至らないような、日常に潜むちょっとした悪意ばかりをリアルに書いた作品は、気持ちの悪い読後感があって、面白い。アパートの同じ階の住人を食事に招いたら、彼女の上司が突然訪問してきて、そのまま自分の部屋であるかのように上司を招き入れ、住人であるかのようにふるまうので、本来の住人の男は、気持ちよく整った自分の部屋から、ついに、汚れ放題の彼女の部屋へ帰らざるを得なくなる話など。読んだ後、非常にもやもやした気持ちになるが、上手いと思うし、こういう小説を書く人はほかにあまりいない。独特の作風である。

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ロボット・イン・ザ・ガーデン デボラ・インストール [本]

2015年のイギリスの作品。自動運転とかAIとか、ほぼ現代そのままに、ロボットとアンドロイドだけが普及しているという設定である。タイトルのとおり、庭に迷い込んだ、おんぼろロボットと、ロボットを拾った男が、ロボットを修理するために、イギリスからアメリカへ、東京へ、そしてパラオへ、とヒントをたどりながら、旅をすることになるという、ファンタジー。そして、ロボットが、主人公の名前を連呼しながら、足にしがみつき、まるで仔犬のように可愛いというあざとい設定。要は、シロとはハチとかの泣かせる動物映画のロボット版。ただし違うのは、ロボットはたどたどしくながら、言葉を話せるということ。子供の方が、そうすると近いか。


とはいえ、旅する間の物語は結構面白かった。最後にイギリスに帰ってきての、大円団的な終盤がややながくて、やりすぎ感がある。もっと早く終わってよかったのに。

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最愛の子供 松浦理英子 [本]

松浦理英子の新作。女子高校生たちが、疑似家族を作るような話だというので、女子高出身者としては、あまり食指は動かなかったが、読んでみた。


結論としては、面白くない。「わたしたち」という正体不明の一人称が妄想を含めて物語を進めていく。「私たち」は、疑似家族3人の周囲にいる女子高校生たちであることは間違いがないのだが、まず、これが心地よくない違和感。だいたい、「わたしたち」みたいに女子高校生がまとまるはずがない。


3人の関係性に焦点があてられているのだが、別に面白くもなんともない。そして、最後の数ページで、いきなりやたらと感傷的になる。評価できない。とても好きな作家だったし、寡作なので、残念だ。

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