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忘れられた巨人 カズオ・イシグロ [本]

カズオ・イシグロの最新作を読んでみた。毎回作風が違うのが、この作者の特徴だが、今回は、ファンタジー風。あくまで、「風」であって、ファンタジーではない。中世のイギリスを舞台に、アーサー王とか騎士とか高僧とか龍とか妖精とかが出てくる世界なのだが、主人公の老夫婦をはじめ、登場人物の記憶がまだらになっている世界で、記述されていることの不確かさは、「充たされざる世界」に通じる嫌な感じの不安や不条理を想起させる。


作中の時代は、アーサー王の死後間もなくということなので、そういえば、「アーサー王」のオリジナルに近いものを持っていたはずだと思って、探したら、「アーサー王の死」(ちくま文庫)が見つかった。この本はとても読みにくくて、30ページ位で挫折したものだ。プロットだけ追えば楽しい物語で、アラビアンナイトのように毎夜少しずつ人が語ったりするのを聞けば楽しめるのだろうが、読み物としてはつらい。アーサー王自体は実在はしていたのだろうが、おそらく多くの物語は伝説だろう。


「アーサー王の死」の登場人物一覧と解説だけみると、このイシグロの作品に登場する「ガウェイン卿」という人物は、アーサー王の物語にも登場する。もっともアーサー王より先に死んでいる。アーサー王はその死のとき、船に乗せられて、島に渡ったという。妖精の島ともいわれているようだ。この辺が、イギリス人ではだれでも知っているのだろうアーサー王の物語を踏まえて読むと、違うのかもしれない。

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アンチクリストの誕生 レオ・ペルッツ [本]

作者の名前を聞いたことがなかった。第一次大戦後、ヨーロッパで人気を博したらしいが、第二次大戦でユダヤ人だったのでパレスチナへのがれ、それからあまり知られなくなったらしい。


ちくま文庫のこれは、短編集で、表題のアンチクリストの誕生は、割と長く中編の長さがある。全体として、「世にも奇妙な話」のような、幻想小説でも、ホラーでも、SFでもない、ちょっと不思議な話が書かれている。(以下、ややネタバレあり)


「アンチクリストの誕生」は、自分の息子がアンチクリストであり、アンチクリストである赤ん坊を殺して、世を救うのが自分の使命だと信じる男の話。「アンチクリスト」とは、どういう存在なのかというのは、作品中に書かれてはいない。私は、キリストが神の子で、人を救うために遣わされたのだから、その「反対」であるのならば、悪魔の子で、人を滅ぼすために遣わされた存在ということになるんだろう、と思って読んだ。

そこで、この男の信ずるところが、喜劇的な単なる思い込みなのか、そうではないのか、というのが、最後に答えが明かされる。(と解説にある。)実は、私は、読んでいたとき、この明確な「答え」に気が付かなかった。でも、その他の仄めかしから、はっきり書いてはいないが、「アンチクリスト」だったのだな、と思った。で、作中の明確に明かされている「答え」が結論的には、ちょっとアンチクリストとしては小者すぎるので、私が最初に感じたように、歴史上の人物でも誰でもないけど、架空の本物のアンチクリストだった方が良かったのではないかと思う。


そこで、作品中の「答え(名前)」の代わりに、他の名前を入れて、空想してみた。まあ、「アドルフ・ヒトラー」なんかが正統派としては最も落ち着きがいい。スターリンとか。でも、生きている人の方が、本物のアンチクリストの可能性があるという点では面白い。ドナルド・トランプとか、金正恩とか。「美少年」からほど遠いところが残念だが。


短編集の冒頭の、暗号を解く男の話も、何でもない話だか、面白くて好きだ。


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東の果て、夜へ ビル・ビバリー [本]

ロサンゼルスの「ボクシス」という箱庭のような狭い世界で生きている、14歳の黒人少年のギャング、イーストが主人公。イーストの仕事は、ドラッグ密売所の見張りなのだが、ある日、ギャングのボスから、はるか東のウィスコンシン州で、黒人判事を殺してくるようにと命じられる。車で。同行者は、他に3人の少年のギャング。


イーストが、箱庭を出て、違う町の景色を見ているという序盤の描写から、まあだいたいどういう小説かは想像はつくのだが、それでも面白い。同行者たちとの関係、判事を殺して逃げていく過程など。判事殺しにその4名が選ばれたわけは、目的達成のためのバランスかと思いきや、最後に意外な真相が明かされる。


翻訳の手腕もあるのかもしれないが、文章や描写に静謐な雰囲気が漂っていて、好みだった。

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くじ シャーリィ・ジャクソン [本]

「ずっとお城で暮らしている」という長編だけ読んだことがあって、「くじ」という作品が有名なのは知っていた。これは短編集で、有名な「くじ」は一番最後に収録されているが、他の作品と比べて、特別面白いわけでもなかった。


しかし、犯罪までに至らないような、日常に潜むちょっとした悪意ばかりをリアルに書いた作品は、気持ちの悪い読後感があって、面白い。アパートの同じ階の住人を食事に招いたら、彼女の上司が突然訪問してきて、そのまま自分の部屋であるかのように上司を招き入れ、住人であるかのようにふるまうので、本来の住人の男は、気持ちよく整った自分の部屋から、ついに、汚れ放題の彼女の部屋へ帰らざるを得なくなる話など。読んだ後、非常にもやもやした気持ちになるが、上手いと思うし、こういう小説を書く人はほかにあまりいない。独特の作風である。

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ロボット・イン・ザ・ガーデン デボラ・インストール [本]

2015年のイギリスの作品。自動運転とかAIとか、ほぼ現代そのままに、ロボットとアンドロイドだけが普及しているという設定である。タイトルのとおり、庭に迷い込んだ、おんぼろロボットと、ロボットを拾った男が、ロボットを修理するために、イギリスからアメリカへ、東京へ、そしてパラオへ、とヒントをたどりながら、旅をすることになるという、ファンタジー。そして、ロボットが、主人公の名前を連呼しながら、足にしがみつき、まるで仔犬のように可愛いというあざとい設定。要は、シロとはハチとかの泣かせる動物映画のロボット版。ただし違うのは、ロボットはたどたどしくながら、言葉を話せるということ。子供の方が、そうすると近いか。


とはいえ、旅する間の物語は結構面白かった。最後にイギリスに帰ってきての、大円団的な終盤がややながくて、やりすぎ感がある。もっと早く終わってよかったのに。

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最愛の子供 松浦理英子 [本]

松浦理英子の新作。女子高校生たちが、疑似家族を作るような話だというので、女子高出身者としては、あまり食指は動かなかったが、読んでみた。


結論としては、面白くない。「わたしたち」という正体不明の一人称が妄想を含めて物語を進めていく。「私たち」は、疑似家族3人の周囲にいる女子高校生たちであることは間違いがないのだが、まず、これが心地よくない違和感。だいたい、「わたしたち」みたいに女子高校生がまとまるはずがない。


3人の関係性に焦点があてられているのだが、別に面白くもなんともない。そして、最後の数ページで、いきなりやたらと感傷的になる。評価できない。とても好きな作家だったし、寡作なので、残念だ。

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オーロラの向こう側 オーサ・ラーソン [本]

スウェーデンのミステリ。シリーズもので、3作目を読んで面白かったので、1作目であるこの作品を読んだ。


主人公は、首都の一流法律事務所で働くタックスロイヤー。出身地である北部で起きた殺人事件に否応なく巻き込まれて、という話である。たぶん、スウェーデン北部地方の、都会からみたエキゾチックさなどが、私には理解できないところもあって、その辺の面白さというのはよくわからない。ただ、主人公が、歓迎されない(嫌われている)人々の間に帰って行って、彼女を嫌っている人たちが、彼女の高価なコートや靴を見ていた、というような描写が、小気味いい。彼女が高価な服を身に着けているから、それが「見返した」ことになるのではなくて、挑戦して、都会での厳しい仕事をし、その対価として高収入を得たことは、彼女の選択の結果である。彼女は負け続けていないということだ。


話の展開は暴力的に過ぎるようにも思われるが、この主人公の女性がかなりよく描けている。作者が女性ということもあるのだろうが、女性警官など、概して女性の登場人物にリアリティがある。そして、被害者遺族である彼女の旧友の、真の姿が最後に再確認されて、こういう人はときどきいるよね、簡単な小説じゃなかったね、と思わせる。


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悪いうさぎ 若竹七海 [本]

本好きなつもりなのに、この作家の名前をアメトークで聞くまで知らなかった。文庫もたくさん出ているのだが、装丁がライトノベル風で、本屋で見て買うことはないな、という感じ。


この作品は、おそらく作者と同年代の装丁の女性探偵のシリーズものの一つで、いくつか読んだが、これが一番面白かった。このシリーズは、主人公が、「永遠の28歳」みたいな感じではなくて、読者や作者と一緒に年を取っていく。しかも、家賃7万円のアパート住まい、などということになっており、「バーでギムレット」のような探偵よりも、ずっとありそうな人物設定なのである。物語は、やや慌ただしく、ハードボイルドにすぎるが、表現や背景に流れるトーンに独特の洒脱のセンスがあるところはよい。

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熊と踊れ アンデス・ルーシュルンド ステファン・トゥンベリ [本]

スウェーデンで実際にあった連続銀行強盗事件をモデルに書かれたという小説。

テーマは「暴力」である。「熊と踊れ」というのは、犯人の兄弟たちのDV親父が、長男に「熊と踊るように人を殴れ」と教えたから。

前半やや退屈だったが、後半になって、兄弟の2人が抜け、どのような帰結になるのだろうと思い始めたころから、一気に読ませる。共著者の一人が、モデルになった事件の犯人の兄弟の一人(犯罪には参加していない)だという。スウェーデンのミステリというのは、非常に社会性が高いものが多く、関心する。移民や暴力の問題が深刻そうで、決して夢のような社会ではないのだろうけれども、こういう作品が次々と出てきて、受け入れられるというのは、日本よりも大人な社会なのではないか、と思う。 


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コンビニ人間 村田沙耶香 [本]

明るい題名とは裏腹に、あまり読後感の良い小説ではなかった。「読後感が良くない」というのは、作品として優秀ではないということではなく、普段目をそむけているものを見せられたからのような気がする。だから、私は、これはすぐれた作品だと思う。コンビニ店員でいることが、唯一社会の歯車となるための手段で、それでもなお社会に適合することができない人の話だ。

題名の「コンビニ人間」というのは、考えようによっては、SFとかファンタジーとか不条理小説とか、そういうものに通じる訳だ。それでも、これはリアリズムであるから重いという小説だった。


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